ケータイでパケット代100万円とかになっちゃって「契約するときにちゃんと説明してくれないのが悪いからこんなの無効!」というやや強引なロジックで裁判するんだかしないんだかって話しを聞くたびに思い出すことがあります。
20年ほど前のことなんですけど、初代ゲームボーイ発売という人類の一大ブレークスルーに直面した僕は、その近未来ガジェットをいかにして入手するか、ということばかりを考えていました。
……親にねだる以外の選択肢なかったんですけどね。
最初は門前払いもいいところでまったく相手にされないおねだりでしたが、じっくりねちっこく時間をかけてゲームボーイの素晴らしさをプレゼンし、最終的に両親から「指定する条件で契約書を作成すれば買ってやらんこともない」という譲歩を引き出すに至ったわけです。
僕は喜び勇んでさっそく契約書を作成。
《ゲームボーイ買ってもらうかわり、嫌がらずに家の手伝いやりますし学校から帰ったらいの一番に宿題やりますし妹いじめませんしクリスマスもお年玉もなくていいですし好き嫌いなくしますし……》
かなり不利な条件を飲んだもんです。
もちろん契約違反が生じた場合の措置についても言及。
《約束を破ったらゲームボーイだけでなくその他のゲーム機器没収されることになっても文句いいませんしお小遣いカットされても文句いいませんし……》
ルーズリーフにつらつらと約束事を書かされ、本当にこれでいいのかと内容を確認され、はいもちろんいいですよで無事契約完了。
おっしゃーぁぁぁぁぁぁ、ついにゲームボーイっゲットだぜっっっ!
──次の日。
学校から帰ったらあるじゃんあるじゃんもうすでにゲームボーイが僕のくるくるメカの上に!
グレーの箱がやけにまぶしいぜっ。
あれ……だけど……本体だけ?
カセット(ソフト)がないよ?
居間でテレビ観てた両親にお礼をいいつつカセットの件について尋ねたことろ、「オマエはカセットも一緒に買ってくれとはひと言もいわなかったし、契約書にも《ゲームボーイ買ってもらうかわりに……》とだけしか書いてないじゃないか」と。
や、やられた。
当然そんなことで納得できるはずもなく徹底的に反論したんだけど、あきらかに理は両親にある。
不備による無効を訴えるがもちろん受け入れられず。
せめて契約書をほんの少しだけ修正させてくれと懇願するもまったくの徒労。
半ベソかいて抗議する僕の言葉を遮り、「帰宅したらすぐ宿題するっていってなかったかなぁ? ゲーム全部取り上げられたいの?」なんて感じでドSっぷりを発揮する両親のことを思い出すといまでも鼻の奥が熱くなって仕方ない。
約束通りゲームボーイ買ってもらったけど契約の不備が原因で遊ぶことができず、悔し涙流しながらこなした算数ドリルのことは生涯忘れないね。
──ちなみにカセットを入手するまでどうしてたかといいますと、お風呂上がりにピカピカの本体を箱から取り出し、電子機器独特の素材臭をかいだのちおもむろに電源を投入、『チョリーン』って起動音を聴いてからふたたび箱にしまうというのを毎日繰り返してました。
マニュアルに《ソフト挿入してない状態での電源投入は故障の原因になりますのでおやめください》みたいなこと書いてあったから、『チョリーン』を楽しむのは1日1回だけ。
マイルールにうるさいB型なんで、そこんところは徹底してました。
あとそうだ、もう1個思い出した。
小学校6年生の時に5万円の自転車買ってもらいました。
買ってもらったっつーか、当時実家は読売新聞の販売店やってたんで、新聞配達を手伝い給料から少しずつ返済していきますみたいな約束で立て替えてもらったんですよね。
毎朝100軒くらい配達して月のお給料が15000円ほどだったかなぁ。
そこから自転車購入代金の立替分として5000円天引きされ、手取りは10000円。
で、そこからさらに2/3を強制貯金させられ、月のお小遣いだいたい3000円くらい。
お小遣いじゃねえな。
僕の立派な給料だ。
小学生時分にしちゃあなかなかの稼ぎじゃないか。
購入資金を返済した後はお給料まるまるいただけるようになるし。
ということで張り切って働いてたんですが、おかしなことに配達はじめてから1年経過したあともお給料から5000円天引きされ続けるんですね。
さすがに納得できず、「自転車の立替分くらい余裕で返済してませんかね?」と母親に尋ねたら、「借りた金には利子が付く」というごもっともな意見でうまいこと言いくるめられ、なんだかんだで中学卒業する直前まで都合4年間ほど給料から天引きされ続けました。
5万のローン組んで元利均等5000円×48ヶ月=24万返済ってことは年利120パーセント近くいかれてしまった計算だ。
ブラックな金利がやけにまぶしいぜっ。
僕、10代前半でピンハネ地獄&闇金の餌食という軽めのウシジマ君体験。
ゲームボーイのときとはうってかわって、契約書を作成せず口約束でお金借りちゃったのが悲劇の種。
両親のダブルスタンダードっぷりには腹立つけど、まぁしかし社会ってそんなもんだしなぁ。
──全体的にそんな教育を受けてきたので僕は契約書とか穴があくほど読み散らかしますし、お金にもうるさいです。
ついでにドSです。