高校時代の同級生テラノ君と飲みにいきました。
けっこうな新婚さんであるにもかかわらず、次世代通信網設置のため東京へ単身赴任──3年2ヶ月のいわゆるひとり旅──だそうです。
テラノ君と僕は同じ学生寮で暮らした、オールドスクールな言い方をするところの「同じ釜の飯を食った仲間」なんですが、学科は別だし同室になったことはないしで、実際のところそれほど親しかったわけではないんですね、当時は。
お互いの顔と名前は一致するし、機会があれば話もするけど、友だちか?と問われたらうーんビミョーかも……と口を濁してしまう。
たぶん、そんな感じの間柄。
──で、話はさかのぼること13年前。
ちょうど今くらいの季節です。
その時の僕ときたら本当にひどいありさまで、学校中退して働いてた博多のぼったくりバーでどうしようもなくテンパった状況に追い込まれ、命からがら、本当に命からがら大分県まで逃げ帰ってきたばかり。
学校中退住所不定無職所持金300円。
ダメ男マージャン、みごとな数え役満デス。
春の陽気に似つかわしくないメランコリックな気持ちでカタギな職を探し、どうにかこうにかして東京で住み込みの仕事を見つけたはいいものの、だけどどうやって東京まで行く資金を調達すればいいのか1ミリも思い浮かびません。
一番安い高速バス乗り継ぎコースでも2万円弱かかるんです、大分県から東京までは。
無い知恵を振り絞った結果、これはもう誰かに上京資金を借りるしかない、というなんのひねりもないアンサーに行き着き、「誰か」というのはまあ有り体にいえば「友だち」ということになるので、大分市内から学生寮がある明野ってとこまで大体5〜6キロくらいをトボトボ歩いたんですね。
歩いている間中ずっと不安でどきどきしていて、それは「もし誰もお金貸してくれなかったら……」ということへの不安でもあるし、「こんなせまい世界で終わりたくねえ」くらいの小っ恥ずかしいスタンスで学校辞めた人間がノコノコお金を借りに行くことのカッコ悪さ、容易に想像できる「それ見たことか!」という、かつての同級生たちの一段上からの目線への恐れとかものすごくいろんな感情が入り交じっての不安でもある。
だけどとにかくなんとかして2万円調達しないことには僕の人生が始まらない。
学生寮にたどり着いた僕は、仲良かったヤツらにもう片っ端から「明後日までに東京いかなければならない。必ず返すから2万円貸してくれないか?」と頭を下げまくった。
……当たり前だけど、誰も貸してくれない。
そりゃそうだ、僕は学校中退住所不定無職所持金300円だもの。
大体2万円ってのは当時の学生寮経済ではものすごい大金。
たぶん1カ月の生活資金の平均額がそれくらい。
今の感覚に換算すると「月の給料全部貸してくれ」という常識外の申し出。
──10人単位で断られ続け、気がついたときにはもう僕の周りには誰もいなくなってた。
泣くに泣けない自己責任ではあるけれど、それでもやはり泣きたくなってくるよねこんなときは。
いろんなものを諦めてしまいそうになるその瞬間、たまたまテラノ君が通りかかって、僕はもうダメ元でほんと厚顔無恥もいいとこなんだけど、「かくかくしかじかあって東京へ行きたい。だから金を貸してくれないか」とお願いしてみた。
そしたらテラノ君、びっくりするくらいあっさり貸してくれたんですよね、2万円。
1カ月の生活資金をそっくりそのまま全部。
顔と名前は一致するし、機会があれば話もするけど、友だちか?と問われたらうーんビミョーかも……と口を濁してしまう相手に。
で、僕は借りたお金でそのまま長距離バスに乗り込み、博多経由で30時間くらいの旅をしてなんとか東京へとたどり着いたのです。
2万円でバス賃払ってたしか残金500円くらいだったかなぁ。
それで牛丼食べたんですよね、博多駅で東京行きのバスを待っている間に。
久しぶりの温かいご飯。
食ってるそばからポロポロポロポロ涙が出てきて始末におえない。
いぜん心の内は不安で一杯でしたが、それは学生寮へと向かう道をトボトボ歩いていたときに感じた不安とはまったく別のもの。
なんとなく見えてきた未来に対する期待や緊張、新しい世界に飛び込んでいくことへの戸惑いとかためらいとか。
泣きべそかいて牛丼をかき込んではいるけれど、気持ちとしてはこの上なくポジティブで、ああ僕はもうこれからはオトナなんだ、と初めて自覚した瞬間でもありました。
長い長い少年時代の終わりが牛丼。
あんまドラマチックじゃねえなぁ。
まあしかし要するに、テラノ君がいなければ今の僕は存在しない、ということです。
人生史上屈指の大恩人だ。
夕飯前に「神とテラノ君に感謝します」というお祈りの習慣を設けてもいいレベル。
そんなシーンが『MONSTER』だか『マスターキートン』だかにあったよなぁ……。
──久しぶりの再会は武蔵小山の『奄美』というお店。
http://r.tabelog.com/tokyo/A1317/A131710/13046776/
テンション上がりすぎて尋常じゃない量を飲みました。
ふたりで焼酎一升くらいいってるね。
べろべろに酔っぱらって、高校時代なんの脈絡もなく開始された寮の屋上でのフリーパーティーの思い出や、盗んできたビデオデッキで見たAVのこと、そのビデオデッキのせいでテラノ君が停寮処分食らっちゃったこと(盗んできた僕は停学1ヶ月)、などについて語り合い、せっかくだからとかねてから気になっていた「なんであの時、お金貸してくれたのか?」という問題について切りこんでみたところ、「たまたまパチンコで勝った日だったから」とかもうなんかすげえカッコいいこといいやがる。
降参!