午前中、諸般の事情があって新宿駅東口の交番前で輪行袋から自転車を取り出した瞬間、背後から声をかけられた。
「あなたどこからきたの? 学生さん?」
振り返ると60〜70歳くらいのおじさまが、こぎたない紙袋抱えてたっている。
肌色悪いし、積年の喫煙によってなのか、すべての歯が黄土色。
着ている服もボロボロで、限りなく住所不定無職……的な雰囲気だ。
自転車乗り、という感じではないのにやたら自転車にくわしく、そして僕の話にものすごく食いついてくる。
「普段はどんなところを走るのか?」
「どれくらい遠くまでいったことがあるのか?」
「どんなトレーニングをしているのか?」
投げかけてくる質問の内容だけで判断すると、まあそれほどおかしなところはない。
おかしいのは……おじさまと僕の距離。
ものっすごく、近い。
キスされんじゃないかと不安になる、そんなせめぎ合いの距離。
加えておじさま、妙にいいニオイがする。
ホームレス同然の格好してるのにそれらしき臭気は一切なく、すんごいナチュラルな石けんの香りっつーか、シャンプーの香りっつーか……。
やけに乙女のニオイだ。
やたらボディータッチも多い。
……ひょっとしておじさま、ゲイ能関係の人?
おじさまは「さすがスポーツやってるだけあって、すごいねえ太もも!」「学生時代なにやってたの? 短距離?」なんてことをいいつつ、両手で僕の太ももをさすってくる。
おい案の定かよ。
いやいやいやいや、僕のこのたるったるな太ももの、どこに陸上選手の片鱗が?
スポーツやってるってアンタ、ほんの2ヶ月程度自転車漕いだだけだっつーの。
ってゆーかセクハラじゃねえかこれは!
やんわりかわしつつ、自転車の組み立てに集中するそぶりを見せると、おじさまは「電話番号教えるから、いつでも好きなときに泊りにきなさい」とゲイなのにストレートな勝負を仕掛けてきた。
いきなりお泊まりのお誘いはどうかと思うけど、しかし自分の人生を振り返ってみれば、似たようなもの言いを女の子に対してやらかしたことは一度や二度でなく、それでも笑顔で「じゃあ今度連絡するねっ!」といってくれたみなさまへの感謝と贖罪の意味も含めて、おじさまの「もしかして……」にちょっとだけつき合うことにする。
ケータイにおじさまの電話番号(自宅のだった)を登録し、んじゃ今度お邪魔しちゃおうかなあとサービストークもちょろっと。
「ウチは黒電話で履歴残んないから、出るまでしつこくかけてねっ! 絶対だよっ!」
おじさまはそう言い残して歌舞伎町方面へと去っていきました。
自分の番号教えつつ僕の番号聞かなかったところが、紳士っつーか乙女っすよね。
そんなこんなで自転車走れる状態にして、サイコンの反応とかチェックしてたら、また背後から「すいません」と声が。
さっきのおじさまとは別人。
僕よりもあきらかに若い。
美容師風。
そして確実にゲイ。
パッと見てわかる。
なんだここはひょっとしてそのスジの人気スポットなの?
新宿駅東口の交番前でロード組み立てるのはOKのサインとか、そんな暗黙のルールが存在するのか?
なんやかんやと話しかけられ、最終的に「ちょっと太もも触らせてもらっていい?」という展開に落ち着く。
どいつもこいつも大胆だな、朝っぱらから。
まあでもいいよ別に、減るもんじゃないし。
太ももを触りたい気持ちは僕もよくわかる。
ひざ枕、最高に気持ちいいもんね。
が、実際触って、たぶん「思ったほどではなかった」んでしょうね、わかりやすく僕に興味をなくし、「じゃあまた」といってそそくさ立ち去ってしまった。
キーっ! なんか腹立つわあ。
だけど僕も指名写真と本人のギャップにわかりやすく落胆したり、ブラジャーとった瞬間表情くもっちゃったり、女の子ヘコますようなこと何度かやっちゃったハズだ。
そうか、こんな気分になるのか。
ほんとごめんなさい。
で、リュック背負ってヘルメットかぶり、自転車にまたがったところで、また声をかけてくるヤツがいる。
ハードゲイの定番、警官のコスチュームきた三人組。
間違いなく本物。
この場合の本物は、「本物の警官」ということであって「本物のハードゲイ」ではない。
実際どうだかわかんないけどね。
入れ替り立ち替り「その自転車は外国製なのか?」「レースには出るのか?」「毎日どれくらい漕ぐのか?」等の質問攻め。
なんだよ職質かよとテンプレ返事していると、警官のひとりが
「ところでさっき話しかけられてたみたいだけど、あれはお友だちなの?」
こう聞いてきた。
「違います、初対面です」
「そうなの? さっきの人たち、キミのとこまですごい遠くからダーって駆けよってきたからさあ。お友だちなのかなーって」
60過ぎのおじさまが同性の太もも触るためにダッシュ。
衝撃だ。
よっぽど僕がど真ん中だったのか。
もしくはそうせざるを得ないのマイノリティーの悲哀があるのか。
まあとにかく、新宿駅東口の交番横で輪行袋ガソゴソやるのは要注意ってことです。
レーパンなんて絶対はけないわ。
あと警官の周辺警戒能力ハンパねぇって思った。
今日はそんな感じです。
月: 2009年10月
眼科。
眼の充血、ひどすぎる。
痒さ極まってるし、起床したときに目やにでまぶた開かない。
春先、スギ花粉の時期に食らってしまう症状と酷似しているため、これはもう秋の花粉症キャンペーンご当選おめでとうございますぱんぱかぱーんというのが自己診断の結果ながら、別の病気であるという不安もぬぐい去ることができない。
マジニになっちゃうかもしれないし(※CGです)。
いきなり「オッパイのペラペラソース!」って絶叫するかもしれないし。
どうでもいいけどホントに痒い。
むしろ痛い。
やっぱプロの判断を仰ごう。
ということで数年前、眼精疲労ひどいときに目薬もらいにいったことがある近所の眼科へ。
キャバ嬢の名刺なんかとごっちゃ混ぜにして机の引き出し放り込んであった診察券を探すのが最初の課題。
やたら多い新宿の老舗セクキャバ『スーパーエンジェル』の名刺。
思わぬところでオッパイのペラペラソースと遭遇だ。
そんなつわものどもが夢の跡に挟まれた状態で、うれしそうに黄ばんでいる診察券を無事発見。
適当に着替え、寝癖もそのままにトボトボ歩いて病院まで。
受付で症状を説明し、眼鏡はずして眼の状態を見せたら院内が「くされ神がきたぞー」「油屋の一大事じゃー」「千っ、出番だよ!」的な空気になり、それじゃあ診察の順番くるまでコチラでお待ちくださいと、待合室ではなく視力検査室みたいなところに通され、さらに僕の診察券と保険証受け取ったナースさんがものっすごい勢いでじゃばじゃば手洗いをはじめた。
たっぷり消毒液ふりかけながら。
え、なにそれ……地味にショックなんですけど。
中学校で全クラスの女子から嫌われてしまったときのような心境でぽつねんと長いすに腰かけ、やべえ眼球から自転車飛び出してきたらどうしようなどと考えていると、待合室には10人近くの患者さんいたはずなのに速攻でお呼びがかかる。
先生、けっこうイケメンだ。
「はーい、どうしましたー」
「一週間くらい前ものもらいできて、そのあと両眼そろって激しく充血して……」
「あっ、これは『はやり目』だねぇ」
眼科の先生はそう言うと、僕の耳のすぐ下あたりを指先でグイグイ押してきた。
いてててててててててて。
すんげえ痛いっ!
「痛いでしょ? リンパ腫れてるもん。やっぱ『はやり目』だ」
同じ場所を自分でも触ってみると、なるほど耳のすぐ下にコリコリとした物体が埋まってる感じ。
腫れてるわ、確かに。
お医者さんの説明によると、はやり目(急性結膜炎)はウイルスによって引き起こされる疾患で、かなり強力に伝染しまくるそうだ。
学生が感染すると、登校禁止になっちゃうんですって!
院内感染でも広がっちゃうから、疑わしい患者はとりあえず隔離するっぽい。
本気でバイオハザードじゃねえか。
じゃじゃーん。
ここ数週間で僕と接触したヤツ、全員アウト〜。
つーか誰だよ、僕にうつしたヤツ!
……しかし一応念のため、春先花粉症の時期に必ず同様の症状が出ており、自分の見立てとしてはアレルギー起因な気がしてならない旨を伝える。
んじゃまあ検査してみますか、ということで猛烈にしみまくる液体を点眼して目やにを採取し、妊娠判定薬みたいなヤツでチェック。
「ラインが2本出たらウイルス起因ですので」
先生と一緒に固唾をのんで見守るも、あらわれたのはライン1本のみ。
すなわちウイルス関係なし。
バイオハザードじゃなかった。
よかった。
ほかの人にうつってしまう心配、ないそうです。
結局「ブタクサの季節だしね、ウイルス関係ないんだったらすぐ治るよ」とうことで、目薬を2本処方され終了。
帰宅後点眼したところ、津波直前の潮みたいな速さで痒さが遠のいていく。
おー、やっぱドラッグストアの目薬とはモノが違うわあ。
いつも何度でも使えるのもうれしいですな。
赤化。
どうも眼の様子がおかしい。
ものもらいは完治したのに、両眼そろってすげえ真っ赤っか。
バイオ5のマジニみたいになってる。
ついでになんか眼球が痒い。
まるで春先、花粉症ド直撃してるときのような痒さで地味にツラい。
……花粉症?
もしかしてと思い、ちょちょいと検索してみたところ、『秋の花粉症』というタイトルのページがヒット。
秋の花粉症の原因となるのは、ヨモギ、ブタクサ、イラクサ、セイタカアワダチソウといった、空き地や道端、河川敷などに群生している雑草の花粉です。
あーあーあー、河川敷!
しょっちゅう行ってるわ!
こりゃ間違いねえな。
ということで当分の間、河川敷でのLSDトレは中止だ。
がっかりすぎる。
新しく50キロ程度のコース考えないと。
かゆ……うま……。