右直。

 4月21日。
 午後三時、自転車かついで石垣島へ到着。
 送迎のワゴンに乗り込んでいつもの宿へ。
 早速自転車を組み立て海沿いの道を走行中、反対車線から強引に右折してきた原付と接触して転倒。
 バチンバチンと音がしてビンディングが外れ、そのまま4〜5メートルほど吹っ飛ばされたあと右肩から地面に激突。
 石垣島到着後、わずか1時間後の出来事だ。
 原付と衝突する瞬間思ったのは「うそ、曲がるの!?」だった。
 事故相手の男性が「俺が見えなかったのか?」とか「ちゃんと歩道、走ってた?」などとふざけた言葉を投げかけてくるのをすべて無視し、また身体のダメージも一切気にせず真っ先に自転車をチェック。
 ホイールがバキバキに壊れ、フロントフォークも目視できるレベルで歪んでいた。
 ただ、フレームそのものはかなりキレイだ。
 傷ひとつ無いレベルといっても過言ではない。
 事故を目撃した人(幸いなことに看護婦さんでした)が通報してくれたらしく、すぐに救急車とパトカーがやってくる。
 首に大げさなコルセットをはめられ、脈拍や瞳孔の状態をチェックしたあと、そのまま救急病院へ搬送。
 自転車どうすると聞かれたから、すいませんけど病院まで一緒に運んでもらえますかと無理を承知でお願いしたところ、快く救急車に積み込んでくれた。
 かつで多摩サイで見かけた光景が、まさか自分の身に降りかかろうとは……。
 病院で手当を受け、強打した右肩周辺をレントゲン撮影したものの、現在専門の医者が島内にいないため診断&治療ができないらしく、金曜の朝まで湿布と痛み止めで頑張ってくれと告げられる。
 ひょっとして折れてるかもしれないと思うくらい痛いけど、医者がいないんじゃしょうがない。
 耐えるしかないわな。
 手当と検査が終わってからお嫁さんに電話を入れる。
 ジュース代程度しか現金の持ち合わせがなく、病院代を払えないからだ。
 できるだけお嫁さんを驚かせないように気を配りながら事情を説明し「とりあえずお金を持って病院まできてくれたらありがたいんですが……」とお願いしたら横で会話を聞いていた看護婦さんが笑ってた。
 お嫁さんがいる宿と病院は目と鼻の先、タクシー乗ってもワンメーターでなんとかなる距離だ。
 ところが待てど暮らせどお嫁さんが現れない。
 事故の知らせを聞いて動転し、うっかり階段を踏み外して動けないでいるのではないかとか、パニック起こして過呼吸で苦しんでいるのではないかとか、だんだん心配になってくる。
 だが連絡後一時間以上過ぎてから病院に到着したお嫁さんは元気そのもの。
 遅かった理由を尋ねたら「原稿書いててそれどころじゃなかった」と。
 まさにプロ!
 僕とは覚悟が違う。
 心の底から尊敬する。
 しかし数年前、実家で買っていた犬が今わの際を迎えた際、お嫁さんはすべてを放りだして帰省したことを考えると、夫婦として一抹の寂しさをぬぐいきれないのもまた事実だ。
 しょんぼり。
 まあ事故した僕が悪いんだけれどね。
 お嫁さんに病院のお金を払ってもらい、処方された薬と湿布を受け取ってから宿へ帰還。
 これがただの旅行ならいきなり災難でしたねあとは保険屋に任せましょうで済む話だが、今回のハイライトは4日後に開催されるトライアスロンへの参加だ。
 少なくとも自転車はちょっと修理したからといって即走れるようになる状態ではないし、僕の身体も折れてるのか曲がってるのか切れてるのか裂けてるのか、まったく見当がつかない。
 どうする?
 どうなる、俺!
 ──続く。