すんげえ昔の話ですけども、バイト先の先輩──仮にAさんとしましょう──と飲みにいき、僕が酔っぱらって「いまの日本人は他人に冷たすぎる!」的な小っ恥ずかしい論調で世相にもの申したところ、Aさんは笑顔でうなずいて「同感だね」と。
「やっぱAさんもそう思いますよね!」
「思う思う! ってゆーのもさ、昔、俺、暴走族やってるときに国道○○号線の中央分離帯でレイプしたことあるんだけどね……」
「サラ金で働いてたんすか?」
「それはレイクね。レイプだよレイプ。強姦」
ほのぼのの対極にあるえげつない犯罪告白に。冗談だとしてもぜんぜん笑えない。でもAさん笑顔。
「女の子がワンワン泣きながらさ、中央分離帯の横っちょを通りすぎる車に向けて『助けて!』って叫ぶんだけど、だーれも助けにこないんだよね。一応ウチらの前では減速するけどただ見てるだけ。ッつーか見て見ぬ振り? そのときにあぁ日本人って他人に冷たいんだなあって実感したんだよねー」
当時、レザーのパンツにバタフライナイフ忍ばせて通勤していたくらい斜め上方向にとんがってた僕ですが、Aさんの言ってることが0.1マイクロシーベルトも理解できなかった。憤りまくった。さりとて「それはちょっとおかしくないっすか!」と食って掛かることもできず、Aさんの言葉を脳で反芻するのが精いっぱいだった。
さらに胸糞悪かったのは、ショックを受けて黙り込んでしまった僕に対してAさんが、少し慌てた様子で「で、でもさ、 レイプしたっつっても俺は6番手だったからさ!」と弁解したことだ。ふざけすぎにも程がある。どういう環境で育てば「輪姦時の番手が遅いほど罪が軽くなる」などという異次元の倫理感が根付くのかいまだに疑問。
この件がきっかけで僕はAさんを避けるようになり、避けられてる空気を察したのかAさんも僕に絡まなくなり、そのうち僕は仕事を辞めてAさんとはそれっきり。今となっては確かめようがないんだけど、できたら作り話であってほしいなあと思うし、もし仮に本当の話なんだったらAさんには死んでて欲しいです。
そんな気分悪い思い出の詰まったバタフライナイフ。