右折。

 環八と城山通りの交差点で、原付に乗ったおっさんが威風堂々と右折レーンに進入し信号待ちしていた。二段階右折無視まであと60秒! って状況。真っ昼間からいい度胸。
 原付のおっさん、たぶん40歳前半。いい歳してなにやってんだか。人に迷惑をかけないように自爆で此の世からいなくなればいいのにね。などと考えていたら、反対車線側の歩道にいたマンション建設現場の作業員たちが、原付のおっさんに「二段階!」「警察!」「バイク降りろよ!」と怒声を浴びせはじめた。
 すげえジャスティスな人たちだ。
 原付のおっさんは建設作業員たちの怒鳴り声に気付いた様子だったけども余裕のガン無視。「はぁ? なにいっちゃってんの?」って感じでふてぶてしくハンドルにヒジをつき、貧乏揺すり決め込んで「ウザイヤツらに絡まれてイライラしてる俺」的な空気を醸し出しまくってる。頑として右折レーンから動こうとしない。
 すると建設現場で交通誘導係を担っているとおぼしきガードマン姿の女性も登場し、一緒になって「捕まりますよーっ! バイク降りてぇぇぇぇ!」と叫びはじめた。建設作業員たちも、さらに声を張り上げて警告を発する。でも原付のおっさん、完全シカト継続。
 そうこうしてるうちに信号が変わり、原付のおっさんは当たり前のようにサーッと右折。
 次の瞬間、道から白バイが景気よくサイレン鳴らしまくって飛び出してきた。
 原付のおっさん、あえなくお縄。
 僕からは白バイの姿まったく見えなかったし気配すら感じることができなかったけど、建設作業員のみなさんは白バイの存在に気がついていて、さらに白バイが二段階右折無視寸前の原付をロックオンしていることも知り、必死に警告してくれてたんっすよね……。
 原付のおっさん、違反切符を回避するチャンス、じゅうぶんすぎるほどあった。にもかかわらず、天から垂れてきた救済の糸を自ら断ち切ってしまった。自業自得中の自業自得。2年前とぼけた原付のせいで怪我をして現在裁判中の身としては非常にスカッした。正義が履行される瞬間を目撃し、今日はうまい酒が飲めそうだと思いました
 でも建設作業員のみなさんは、原付が白バイに追われる様子を見て、あからさまにガッカリしていた。サイレン鳴った瞬間、そろって「あぁ……」って肩を落としていた。原付のおっさんを救えなかったことを悔やんでいる様子でした。
 よくわからん価値観だ。