覚醒。

某コスギ先生が中学生のときに書いた小説2作を読ませてもらいました。
1作目のタイトルは『Lovers』。
以前ちょっと話題にしたことありますけども『日焼けした男と可憐な少女が竹芝桟橋のヴァンテアンでデートする』というストーリーで原稿用紙に換算すると200枚以上ある超大作でございます。
新井素子さんの影響を受けまくっていることが開幕2行で丸わかり。
文章的にちょっとどうかなあと思ってしまう部分は多々あるにはあるんですが、ヴァンテアン船上のシーンなど、ジェームズ・キャメロン監督『タイタニック』の元ネタはこれか! って錯覚するくらい良かった。
たぶんこのシーンを書きたいがために頑張ったんだろうなあって思いました。
なにより原稿用紙換算で200枚を越える作品を15歳にしてしっかり完成させたというのがスゴイっすね!
そしてルーズリーフをバインダーにはさむためのホールを、ハンダでくねくね縫いまとめてあるんのがパンクでカッコいい!
ページ数多すぎてバインダー使えなかったのかもだけど、しかしなぜハンダなんすかね。
2作目のタイトルは『近い君 遠い君』。
こっちはいわゆる「中二病」エッセンス盛りだくさん!
まず表紙に自分のサインを入れてある。
さらに「オビ」を自作。
また『近い君 遠い君』は希代の天才アーティスト姫島一彦(ひめじまかずひこ)を巡る3章から成り立つ物語なのでございますが、姫島さんのモデルは米米CLUBのカールスモーキー石井さんとのことで、各章のトビラにバンド雑誌『パチパチ』あたりから拝借したと思われる石井さんの写真が感熱紙コピーで貼ってあります。
いいっすよね、このパッション!
そんな『近い君 遠い君』ですけども、第1章、総合芸術雑誌の編集者と姫島一彦のエピソードは、このころの某コスギ先生が山田詠美さんとかよしもとばななさんの影響を受けすぎていたこともあり、文章読んでて洒落乙感が鼻をつきまくります。
うへーってなる。
しかし知的でハイセンスな自分を誇示するかのような文章運びであるにもかかわらず、作中に登場する総合芸術誌のタイトルが『クリエイター』っすからね。
専門学校のサークル会報誌だってもうちょっと気の利いたタイトルつけるでしょうに……。
ところが続く第2章では文章の雰囲気がガラリと変わります。
雑誌編集者と天才アーティストのスタイリッシュ(笑)な物語だった第1章と違って、天才アーティストを追いかける女子高校生の話なので、背伸びせず肩の力を抜いて書けたのでしょうか。
などと上から目線ついでラストの第3章を読み、僕はものすごく感動したのだけど、ここで某コスギ先生、完全に自身のスタイルを確立した雰囲気、あるんすよね。
セリフ回しとか、途端にカッコいい。
もちろん、緊迫したカーチェイスのシーンで「気を付けろ! アイツら鉄っぽう持ってるかもしれねえぞ!」などと急に織田の軍勢にやられる武田軍みたいフレーズ出しちゃう稚拙さはありますが、そんなのを差し引いても才能の片鱗を感じずにはいられない名フレーズがバカバカ飛び出してくる。
覚醒の瞬間に立ち会った気分ですよ。
マジで恐れ入りました。
小っ恥ずかしい中学生時代の黒歴史をあざ笑うつもりで読んだ『Lovers』ならびに『近い君 遠い君』でしたけども、完成度高かったせいで普通に楽しめてしまったところがやや寂しいっす。
まあなんかそんな感じー。