送人。

 警察の案件を多く取り扱う葬儀屋の「おくりびと」さんとお酒を飲んだ。
 よく正気を保ってられますね、といいたくなるくらいハードな仕事だった。
 どれくらいハードか。
「苦手な現場とかってありますか?」
「鉄道関係と、あとは屋根裏の腐乱死体かなぁ」
 開幕初っぱなでこれくらいハード。
 鉄道関係はビジュアル的にキツく、屋根裏はビジュアルに加えてニオイが相当ヤバいらしい。
「ちなみに腐乱死体ってどんなニオイなんですか?」
「アレは絶対に言葉では表現できないニオイだね。とにかくひどい。ビジュアル的にキツいのには3ヶ月くらいで慣れちゃうけど、あのニオイだけはね、どう頑張ってもダメ。慣れるのは無理だね」
「よく自転車で走る峠道に廃旅館あって、そこから強烈な臭気ただよってくるんですが……」
「あぁ、それは腐乱死体あるかもしれないね」
 うわやっぱ大垂水峠やべえじゃねえかよ!
 ほかにもバイク事故でぐっしゃぐしゃになった死体から、電動カッター使ってフルフェイスのヘルメットを脱がしたところ……な話やら、鉄道自殺でバラバラになった肉片を「これはたぶん腕かな?」「太ももっぽいなあ」などとパズル感覚で棺桶に並べる話とか、焼死体などのちょっと遺族に見せられない状態のものは生前の写顔真を拡大コピーして棺桶の窓のところにはり付けとく話とかね、食べてたラム肉が喉通らなくなりそうなエピソード山盛り。
 しかしおくりびと氏の口調は明るく軽快で、遺族からの「心付け」をたくさんゲットする小技を教えてくれたり、「豪華な祭壇見るとついつい写メっちゃうんだよねー」などとよくわからないコレクション癖をカミングアウトしたりするあたりに、やはり僕にはない特殊な才能の存在を感じずにはいられなかったっす。
 別れ際にメアド交換したんだけど、ついでに「今まで見た中で一番豪華な祭壇」の写真が添付されてきて、これをどう扱うべきか今現在猛烈に困ってるところ。
 マジで困ってるっす。

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